11月の法話(令和5年)
いつでも相手の身になって考え
行動できるように心がけていきましょう
【今月の法語】
「他人を自分自身のように思いなさい」 法句経(ダンマパダ)
【法 話】

阿含経(あごんきょう)という仏典に次のようなお話があります。
コーサラ国の王様がある日ふとこんな思いを持ちます。「人々は何を大切に生きているのだろうか。我が国の人々の姿を見ていると、だれもが自分の生活のためにあくせく働いているように見える。結局のところ人は、誰もが自分が一番かわいいのではないだろうか。」モヤモヤしながら、その想いをお后様に聞いてみることにしました。そうすると、お后様も「私もやはり自分が一番かわいいです。」と答えます。そして「王様あなたはいかがなのですか?」と逆に尋ねられます。
よくよく自分に問うてみると「そうだ、たしかに私も私自身が一番かわいい。」と思います。同時に王様はこんな不安に駆られます。「もし、みんな自分が一番かわいいとするなら、世の中大変なことになってしまうのではないか、誰もが自分が一番かわいいのだから、他者を尊重したり、敬い合ったり譲り合ったりすることはできないのではないだのだろうか。それでは国は乱れ切ってしまうのではないか」と。悩んだ王様は、一度、お釈迦様にお尋ねしようと思います。そして王様は妻お后様と一緒にお釈迦様のもとを訪れたのです。
王様はお釈迦さまに尋ねます。「お釈迦さま、私たちは自分中心で生きていてはいけないのだとずっとお釈迦さまから教えられてまいりました。でも、どう考えても私は私が一番かわいいし、后もそういいます。きっと国民一人ひとりもそう思って生きていることでしょう。これではお釈迦様の教えを聞いても何もならないのではないか、国は乱れ切ってしまうのではないかと不安になってしまいます。」するとお釈迦さまは「王よ、あなたの言うとおりだ。人は皆そうなのだ。人は誰しも自分が一番かわいい。だから、やっぱり死にたくないと思う。少しでも元気で若くありたいと思う。病気は嫌だと思う。自分が中心だと思っている。人のことを素直に喜べない。人間とはそういう生き物なのだ。」と。そしてこう続けます。「このように、人は誰しも自分が一番かわいいのだが、そこからの気づきこそが大切なのだ。その気づきとは、自分が自分を大切に思っている、死にたくないと思っている、病気になりたくないと思っているように、隣の人も周りの人も同じように自分のことを大切だと思って生きているということに気づくことだ。」
そして、更にお釈迦様はこう続けました。「そのことに気が付いたならば、人を傷つけてはならないのだと気づきなさい。あなた自身が傷つけられることがいやであるように、他の命もその想いをもって生きているのだから、決して傷つけてはならない。命を奪ってはならないのだ。そしてあなた自身が平和でおだやかに暮らしていきたいと願っているように、他の人々もそのように平和で穏やかな日々を過ごしていきたいと思っているのだ」ここまで聞いて、不安げだった王様の顔は晴れやかになっていました。「自分が大切だとわかることは身勝手に生きることではなく、他の命を心から敬い、大切にして生きることなのだと」とわかったからです。

※阿含経・・最も古い仏教経典集のことであり、お釈迦様の言葉を色濃く反映した真正な仏教の経典とされる。阿含とは、サンスクリット語・パーリ語の「アーガマ」の音写で、「伝承された教説・その集成」という意味です。